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名古屋高等裁判所 昭和35年(ラ)58号 決定

抗告人 中村市造

主文

原決定を取消す。

抗告人は本件につき左記不動産に対し最高価金四拾参万五千六百円也の競買申出をなしたから競落を許可する。

名古屋市南区道徳新町参丁目六拾七番

一、宅地 五拾坪

同所同番 地上建物

家屋番号 第六拾七番

一、木造瓦葺平家建 居宅

建坪 九坪五合

理由

抗告人は主文同旨の裁判を求め、その理由とするところは別紙の通りである。

よつて本件記録を調査するに、原裁判所は本件につき、前記不動産に対し最高価競買の申出をした抗告人に対し「競売期日通知の手続上の瑕疵がある」との事由をもつて競落不許可の決定をしたこと、右手続上の瑕疵とは、前の共同競落人の一人である山内忠雄に対し再競売期日の通知をなさなかつたことを指すものであることが認められる。

しかし不動産の競売手続(任意)において、競売期日を通知すべき利害関係人の範囲は、競売法第二七条第三項に列挙せられた者でこれを制限的に解すべきであるから前の競落人は右利害関係人に該当しない。してみれば前記山内忠雄に対し再競売期日の通知を怠つたとしても再競売手続の瑕疵となるものではない。

もつとも、競売法第三二条民事訴訟法第六八八条第四項によれば前の競落人は再競売期日の三日前迄に買入代金及び一定の利息、手続費用を支払つて競落を確保できるから前の競落人において右代金等を支払う意思と能力がある限りは再競売期日を知ることは利益であり、この意味において再競売手続に利害を有するものと云うべきところ再競売期日を確実に知り得る機会としては競売期日の公告を見、或いは裁判所の係りに問合せることなどが考えられるが坐して知る術としては競売裁判所から再競売期日の通知を受けるに越したことはなく競売裁判所がこれが通知をすることは親切な処置である。しかしながら競売裁判所が前の競落人を所謂利害関係人に準じて取扱いこれに再競売手続上右通知をなすべき責務があると解すべき法的根拠はない。競落許可決定後の競売申立取下げにつき、その同意を要すべき利害関係人の中に再競売における前の競落人も含むと解している最高裁判所判決(昭和二八、六、二五)は本件と競落人の立場が著しく異なる場合であるからもとより本件に適切でない。

しからば本件競売手続には競売期日通知の手続上の瑕疵がなく、その他にも違法のかどがないから再競売期日に最高価競買人となつた抗告人に競落を許可すべきである。

よつて競落を許さずと宣した原決定は失当であるからこれを取消し主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 坂本収二 裁判官 西川力一 裁判官 渡辺門偉男)

抗告の理由

一、原決定の理由とするところは「本件記録を査閲するに競売期日通知の手続上の瑕疵があつたので本件競落は之を許さざるものとし民事訴訟法六七四条並に同法第六七二条により左の通り決定す」と云うにあり

二、然るに裁判所の右適用法条より案ずれば何人かの異議の申立(六七四条)による御裁判の如きも記録を精査したるに抗告人の本件競買申込に対し異議の申立ありたる証左なし是れ本抗告人が原決定の適法性を疑ふ理由の第一点なり

三、仍て書記課に至り右不許可決定の理由を尋ねた処前回の共同競落人の一人たりし山内忠雄に本件競売期日たる再競売期日の通知が欠缺したりと回答を得たり

四、競売法第二十七条に依れば不動産競売手続上の利害関係人の範囲を明定し居り而も同条は強制競売の場合にも準用さるるものとなすこと判例なり。果して然らば再競売手続に於て従前の競落人が法律上の利害関係人に該当せざることは明白なり。現に大阪地方裁判所の如きは再競買期日の通知を従前の競落人に発したる実例なし名古屋地方裁判所に於ては該通知を発せられる慣例なれ共右は法律上必要なる処置には非ず唯前競落に対し御親切なる御取扱に過ぎざるものと信ず。

五、仮に右見解は百歩を譲つて誤りとするも再競売期日の通知の欠缺を主張する前記山内忠雄は本件競売期日に出頭し同日が競売期日たる他の競売事件の競売申込を為したるものにして該事実は八木執行吏を始めとし同日の競売に立会したる松葉信義佐藤松男等の諸氏の現認し居るところなり。果して然らば従前の競落人たる山内忠雄は其の再競売期日に出頭しているのであるから同日の再競売期日の通知の欠缺を以つて抗告乃至異議の理由として主張することを得ざるものであります(大審昭和三年(ク)一二七号昭和三年二月十五日第三民事部決定)(新聞第二八四九号(十六頁)御参照)。尚前記山内忠雄は元加藤富士五郎の使用人にして本件再競売の如きは管理命令迄得て執行後代金払込を怠つたものであることは記録上明白にして斯かる不都合な裁判所に手数のみを煩はし競売関係人に迷惑のみを及す山内忠雄の如きに何を以て裁判所が法律に反して迄其の横車を通さす必要があるのか理解し能はないところであります。仍て速かに原決定を取消し更に相当の御裁判を仰ぎ度く本抗告に及ぶ次第であります。

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